「風になりたい」60代は第2思春期

人生カウントアップ!さていくつまで数えられるか!?

近未来生活

2032年、コロナ禍、食料危機、エネルギー危機を乗り越え、なんとかここまで生き延びることができた…振り返れば、怒涛の老後生活だった。この間、世界では、これまでの死亡率を大きく上回る過剰死亡率を記録し、平均寿命も大きく下がった。もちろん、この日本も例外ではなかった。コロナが流行り始めた頃、ファクターXとか言って、なんだか日本人は特殊な遺伝子を持っているのではなかろうか…などという話で、盛り上がっていたときもあった。今となっては、あの頃が懐かしい…
そうそう、悪いことばかりではなかった…年金問題も嘘のように解消された。
「えっ、どういうことかって?」
「秘密はこのチップバンド。」
2023年から突然死が増加し始め、2025年には一日千人単位で死者数が増加していった。そこで、政府は、全国民にこのチップバンドの常時着用を義務付けた。これで国民一人一人の健康状態が管理される。異常を感知すると、端末からアラームが鳴り、自動的に119番に連絡が行き、現在の身体状況も連絡される。そして、当初論議を呼んだのは、故意に取り外された場合、生体反応を感知できなくなるため、119番と110番に連絡が入り、警察によって、安否確認が行われる。このとき、故意の取り外しが確認されると、市民権が剥奪され、生活保障金の支給が停止されるという厳しい罰則についてである。当時、死者数増加で、社会インフラにも多大な影響が出始め、交通機関での重大事故も多発していたこともあって、安全確保の面からも、多くの国民が義務として受け入れようという空気が大きくなり、チップバンドが定着していくことになった。それからは、話が速かった。以後、このチップバンドを通して、ほぼ手続きなしに、年金を始めとして、生活保障金等の各種補助金が入ってくることになる。その他、健康保険証や運転免許証などもいらなくなり、このチップバンドさえつけていれば、生活の多くの場面で、利便性が感じられるようになってくると、誰も文句を言うものはいなくなった。言うのであれば、バンドを外し、世界各国がそれぞれに定めた非管理区域に移住すれば良いだけだった。もちろん、そこに自ら進んで移住するものなど、なかなかいないのだが…
「まっ、そんなわけで、生活に必要なことは、すべてこのチップの中に入っている。」
「毎月、贅沢しなければ生きていけるだけのお金が入ってくる。まっ、そのお金を見たことはないんだけどね。」
「もっと贅沢したいものは、働く。」
「働かないで贅沢したいものは、投資する。」「毎日、このチップバンドに、投資情報が送られてくるのさ。この端末にチップバンドをかざすと…」
『現在、あなたが投資できるプロジェクトは以下のとおりです。それぞれの配当予想額は、一度端末でダウンロードしていただきご確認ください。』
「便利なもんだろう!?」
「この新しい工場への投資なんて面白そうじゃないか。」「『製造ラインで働く、ロボットの所有権を買いませんか?』とさ。」
「所有権を買って、毎月のロボットの労働賃金を報酬としていただく。」
「もちろん、この投資ができるようになるためには、それなりの条件がいる。」
「ロボットではできない労働に延べ何時間携わってきたか。」「この労働には肉体労働だけではなく、芸術的活動も含まれる。もちろんさまざまな人文科学系、自然科学系などの研究も労働に含まれる。」「今や少ない労働人口でいかに効率的に経済を回すかが最大の課題となってるんだ。」「戦争なんていう非効率的なことをやっている暇は、もう人類にはないんだ。」
わたしたち人類は、この十年で30億以上の同胞を失った。原因不明の過剰死の増大、異常気象による災害死、食糧不足による餓死…私の住んでいる町では、今でも毎日50人以上の方が突然亡くっていかれる。どうしたもんか、今多くの方が投資されている『突然死対策研究プロジェクト』もなんら有効な対策が打ち出せないありさまだ。最も深刻なのが、若いカップルの中で、子供が生まれてこないということだ。こういう言い方も変だが、みんな一生懸命に頑張っているのだが、出生率は1.0を割ったままだ。
「おっと、連絡だ。」チップバンドを端末にかざすと『あなたが投資されていたプロジェクトX900は、需要減少により停止され、配当はストップされます。』
「おいおい、なんてこった。」「そろそろ、生活保障金を上げてもらわんと、生活できんよ。」

この十年で、あっという間に、ベーシックインカムの制度が全世界に定着した。日本の年金は、投資可能ポイントとして、従来の支給額が勘案され、支給されることになった。そのままでは、生活に使えないのである。したがって、国策に基づいて、企画立案されるプロジェクトや株式等に投資して利益を得なければ、生活費として利用できないことになってしまった。
たいへんな世の中になってしまったもんだ…

[これはあくまでもフィクションであり、話の背後に具体的根拠となるものは、存在しません]